かきものCOLUMN

みつばち社会〜働き蜂⑥次の仕事は授乳・給餌〜

  • 2017.09.27
  • by Yoko

先週のコラムから、日本みつばちのお仕事を
孵化してから順を追って見ていっております。
前回のコラムで見たように、
生まれて最初に取り掛かる仕事は、巣の掃除と赤子の保温作業。
保温方法にびっくりでした。
隣の巣房や蓋の上から蜂肌で温めてるなんて、なんかちょっと可愛い。

掃除、保温、お次は授乳・給餌

さて、そんな彼女らが次に取り掛かる仕事が、授乳です。
えっ、さっき蛹から出てきたばかりなのでは?という気もしますが、彼女らが次に取り掛かるのは、孵化したばかりの幼虫に惜しみなくローヤルゼリー(姉妹ミルク)と呼ばれる栄養分を供給する作業なのです。

授乳を担うハチは、羽化後おおよそ5日〜15日の若い働き蜂。この時期は、ローヤルゼリーを生産するために大量の花粉を消費します。

ローヤルゼリー(姉妹ミルク)って何?

健康食品・栄養補助食品などのコーナーで見かけることのある「ローヤルゼリー」。
栄養価の高いイメージを持つものの、一体それが何なのかあまり知らない方も多いのではないでしょうか。
ローヤルゼリーとは、若い働き蜂が作り出し、卵から生まれてからみつばちの幼虫が3日間程度、女王蜂が一生涯食べる高栄養価な特別食。

「ミツバチの幼虫は卵から孵化して楽園に到着する」(丸野訳,Tautz,2010)と言われたりするように、羽化するとすぐに与えられ、プールのように浸かることになるのが、ジュース状の高栄養価な食料「ローヤルゼリー」なのです。

ローヤルゼリーに浸かる幼虫たち

そしてそんなローヤルゼリーを作るのは、幼虫たちの母である女王蜂ではなく、姉妹たち。そのため「姉妹ミルク」とも呼ばれます。
素材は花粉と蜂蜜。みつばちが、これらを体内で分解・合成したクリーム状のものが「ローヤルゼリー」です。

ローヤルゼリーは、みつばちにとってミルクにようなもの。主成分は脂肪酸で、色合いもほんのり白っぽく、指先につけて舐めてみるとコッテリとした風味の液体です。

食べ物で変わる身体

幼虫期に与えられるものがローヤルゼリーのみで、花蜜や花粉へと変化しない場合には、幼虫は女王蜂へと成長を遂げていきます。
そう、実は女王蜂か働き蜂かを決めているのは、実は生まれてからの食料なのです。
もちろん、群れが計画的に女王を作り出す場合には、「王台」と呼ばれる女王蜂専用のベッドルームが作られ、そこで出産・育児が行われます(与えられるものはローヤルゼリーのみ)。
しかし、不幸なことがあって女王蜂が死んでしまった場合には、働き蜂の幼虫にローヤルゼリーを与え続けて、女王を製造することも行われるのです。
働き蜂か女王蜂か、その分岐は生まれながらではなく食にあったのです。

授乳から離乳食へ

そんなミツバチが幼虫期に消費する姉妹ミルクは25mg。
生まれてから3日間はすべての幼虫にこのミルクが与えられますが、働き蜂の幼虫は3日がすぎると、与えられるものに含まれる成分が変化していきます。姉妹ミルク100%だったのが、徐々に花粉と蜜が混ざるようになり、最後の齢になると完全にミルクから、花粉や花蜜、蜂蜜へと切り替えられるようです。
なんだかまるで、ミルクから離乳食、幼児食への変化みたいですね。
実際、この姉妹ミルクは哺乳動物の母乳と同じく、免疫力を高める効果を持っています。
幼虫の時期、細菌感染の経路として腸管からの病原体の侵入が挙げられるのですが、姉妹ミルクを摂取することによって、腸管内に入った細菌に対して免疫防御力が発揮されるのです(丸野内訳,Tautz,2010)。

ワーカーゼリー?

3日目まで働き蜂も与えられる姉妹ミルク(ローヤルゼリー)、
実は女王候補と働き蜂の幼虫とでは質に違いがあるのです。

以前、みつばち社会~女王蜂①女王の誕生~でも少し触れましたが、
働き蜂の幼虫用のものは「ワーカーゼリー」とも呼ばれており、ローヤルゼリーではあるものの、女王用に比べると成分の薄いものが与えられているそう。

そして、女王に成るか、働き蜂になるかの分岐点は、ローヤルゼリーを与えられる期間だけではなく、
この姉妹ミルクの組成の違いも影響していると言われております。
組成の中でも、重要なのは「甘味」で、ローヤルゼリーのうち、重量の35%が六炭糖成分だと女王蜂になり、10%では働き蜂になるのだとか(丸野内訳,Tautz,2010)。

雄蜂への扱いはさらに雑?

 

ずんぐりむっくりとした見た目が可愛らしい雄蜂。
他の姉妹たちと比べて体が大きい分、食事量も多いそう。かわいいですね。
働き蜂と同じく3日目までは同じくワーカーゼリーを与えられ、以降は花粉や蜜が混ざったものを与えられるようになるのですが、どうやらワーカーゼリーを与えられている孵化後3日程度の時点ですでに花粉や蜜の混入率が働き蜂に比べて多いようです。
ワーカーゼリーというか、ドローンゼリーとも呼ばれているそう。
働き蜂の方が良いものを食べてるってことかしら。

摂取期間とグレード

ところで一体どこから出してるの?

「授乳」といっても、乳房があるわけではありません。
頭部に「姉妹ミルク」を分泌する腺(下咽頭腺と大顎下腺の)があり、それを、大顎の内側にある腺(大顎腺基部の内側の閉口部)から溢れさせ、顎の先端部に集めて幼虫のいる巣房へと詰め込みます。
これらの腺は、姉妹ミルクを作らなくなったハチでは機能が退縮しているのですが、諸所の理由から再度生産する必要が出てくると、再活性化されるのだとか。
基本的には若いみつばちだけが作るけれど、必要になれば再度作れるようになるなんて、動物社会でもある現象で、なんだか親近感がわきますね。

ただし、外勤を経験した日本みつばちでは、作り出す成分に変化が起きているようです。西洋ミツバチは、外勤経験後もローヤルゼリーの中に含まれる主成分に変化が見られないのに対し、日本みつばちでは、日齢(分業)によって大顎腺成分に変化が起きているみたいですよ。

外勤を経ると変わる主成分

ローヤルゼリー特有の成分であると考えられている不飽和脂肪酸hydroxy-42-decenoic acid(10-HDAと略される)は、Royal Jelly Acid(ローヤルゼリー酸)とも呼ばれています。
外勤蜂化する前は、日本みつばちも西洋ミツバチも10-HDAと10-hydroxydecanoic Acid(10-HDAA)を主成分として生合成するのですが、外勤を担当するようになると、日本みつばちのローヤルゼリー主成分は10-HDAAとなり、10-HDA(ローヤルゼリー酸)は主成分というほどは作られなくなるのです(西洋ミツバチは、外勤蜂化しても主成分は変わりません)。(篠田雅人,中陳静男,1984松山 茂 , 鈴木 隆久 , 笹川 浩美,1998を参照)

 

今日はここまで

今回は、働き蜂の給餌という仕事を見ていきました。
若い蜂たちは蜜や花粉を食べてローヤルゼリーを作り出し、さらに若い妹たちを育てているのですね。
与えられる成分にも女王蜂か働き蜂か雄蜂なのかで違いがあったり、外勤を経験した高齢の蜂だと出せるローヤルゼリーの成分に違いがあったり。
給餌係と言っても、いろいろなことが起きていますね。
さて、給餌係の次はどんなお仕事が待っているのでしょう。
次回もどうぞお楽しみに。

 

参考文献・URL

山田養蜂場
http://honey.3838.com/lifestyle/tanjyou.html

松山 茂 , 鈴木 隆久 , 笹川 浩美,G125 ニホンミツバチApis cerana japonica Rad.の情報化学物質 : ローヤルゼリー中の遊離脂肪酸と働き蜂および女王蜂の大顎腺成分(生理活性物質),1998

http://ci.nii.ac.jp/els/contents110001089377.pdf?id=ART0001245890

篠田雅人,中陳静男,「ローヤルゼリー酸の生物化学」,1984
http://id.nii.ac.jp/1240/00000053/

はい、やっこです!!
http://cerana.blog.fc2.com/blog-entry-140.html

ローヤルゼリー効果効能.com
http://ローヤルゼリー効果効能.com/index.html

丸野内棣訳、2010、『ミツバチの世界 個を超えた驚きの行動を解く』、丸善出版

 

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